誰でもAIで教材を作って売る時代へ【第1章】教えることの構造が変わった社会の話

※2章構成
第1章|教材は「教えるもの」ではなく「構造として共有されるもの」になった
かつて、教材を作るという行為は“教える人間”のものだった。
それは学校の教師や塾の講師、あるいは資格を持った専門家が行う、
ある種の“権限”を伴う作業だった。
誰にでもできることではない。
というより、してはいけない領域だという意識すら、社会の中には根強くあった。
ところが今、その構造が大きく揺れている。
教材の定義自体が、静かに、しかし確実に書き換わろうとしている。
現在、教材として流通しているものの多くは、
もはや教育機関や出版社を介した「正式な」ものではない。
noteに投稿された文章、Canvaで作られたスライド資料、
X(旧Twitter)のスレッドでシェアされた知見。
さらには、ChatGPTを使って自動生成されたプロンプト集まで。
これらすべてが、学ぶ人の行動を後押しし、理解を支え、
“教材”として機能し始めている。
この変化の背景には、3つの要因がある。
ひとつは、AIが文章を整え、構成を組み立てる手助けをするようになったこと。
ChatGPTを使えば、教材の章立てや流れ、要点整理が自動で提示される。
かつてプロの領域だった「情報の構造化」が、誰にでも開かれた。
ふたつ目は、誰でもプロっぽい見た目の資料を作れるようになったこと。
Canvaのようなデザインツールは、テンプレートを使えばすぐに
“教材らしい”見た目を作り出すことができる。
色、フォント、構成要素はガイド付きで配置され、
視覚的に整った資料が1時間もあれば完成する。
そして3つ目は、販売・配布のインフラが個人向けに整備されたこと。
note、Booth、BASEといったプラットフォームが、
コンテンツの販売を驚くほど簡単にしてくれた。
専門知識や決済スキルがなくても、誰でも“教材を売る人”になれる環境ができている。
この3つが揃ったことで、「教材を作る」という行為の前提が変わった。
もはやそれは、「教える資格のある人」が行う作業ではない。
「自分の経験を整理し、伝えようとする人」なら、誰にでもできることになった。
この変化は、単に“副業がしやすくなった”という話ではない。
情報があふれかえっている時代において、
人が学びたいのは“知識”そのものではない。
むしろ、「どの順番で考えるか」「どういう視点で整理されているか」といった、
情報の“並べ方”や“橋のかけ方”の方に価値を感じるようになっている。
それこそが今の教材であり、
その構造はプロでなくても作れるものだ。すごい時代だ。
たとえば、TOEICの教材を思い浮かべてみよう。
昔なら、満点保持者が理論と方法を解説した「完全攻略」的な一冊が好まれていた。
だが今は、「社会人が仕事の合間に3ヶ月で600点を取った過程」をまとめたnoteの方が売れていたりする。
なぜなら、情報の正確さよりも、実感と再現性のある構造が求められているからだ。
教材とは、誰かの歩いてきた道を言葉で再現する作業とも言える。
どこで立ち止まり、どう考えて進んだか。
それを1本の筋にして伝えられたとき、
それはもう“知識”ではなく、“ナビゲーション”になる。
このナビゲーションは、教壇の上からではなく、
ほんの少し前を歩いている隣人の視点である方が、
今の読者にとっては信用しやすい。
「教える資格」ではなく、「構造化する力」
「プロの知識」ではなく、「等身大の視点」
そうした要素が、現代の教材を形づくっている。
そして次の章では、
この“構造を共有する人たち”がどのように信頼され、
教材が仕事や文化になっていくのかを掘り下げていく。
【第2章|なぜ“プロではない教材”が信頼されるのか】につづく。